プレシャス
変な人
坂井君て…
物静かで
ほんの少し怖い人かなとか
ちょっとそんなイメージで見てたけど。
話してみると
ぜんぜん違う。
さっきまで
この沈黙をどうにかしなきゃって思ってたけど
なんだろ
今はそんなに気にならない。
流れるBGMにただ耳を傾けて、彼の磨くグラスを眺めてる。
ただそれだけで
居心地良かった。
「もう、ぬるくなったでしょ。マスターに作り直してもらう?」
「あ、カクテル?ううん、もうすぐ帰らなきゃ…」
そう言いながらも
残り少ないカクテルを飲み干さないままなのは
やっぱり少し…
この時間が名残惜しい気がしてるせいかな。
「坂井く~ん、一緒に飲も~っ」
ちびちびと喉を潤すあたしの後ろから聞こえるのは
会社帰りのOLさん達からのラブコール。
「こっちおいで~、おごってあげるよ~」
すでに酔ってるのか、ぶんぶんと手を振るお姉さん達に
「飲みすぎたら明日ツラいですよ」
…なんて
軽く頭を下げて笑顔で返す坂井君。
ため息まじりの苦笑いがなんかかわいくて、ついクスクスと笑うあたし。
「坂井君、モテモテだね」
「…あれはモテてるとは言わないでしょ」
「でも、キレイなお姉さん達に言い寄られたら、やっぱりクラッときちゃうんじゃない?」
これが修なら絶対…
だもん
なんて
ちょっと…思いながら。
でも
そんなあたしに返ってきたのは
「一人でいいよ。そういうのは」
逸らすことない
ただまっすぐにあたしを見つめる
そんな
坂井君の瞳だった。