プレシャス
「…坂井君、ちょっと待って?意味が…」
話の主旨が全く掴めないあたしの頭は
ひたすら“?”がループ状態。
ポカンと見上げたままのあたしと目を合わせると
まるで子供を相手するように頭を撫でた。
「…彼氏が相手だと嫌われたくないって言いたいこと言えなくなる。
でも俺相手なら…何を言っても傷付かずにすむでしょ?
要はリハビリ。
志穂さんがもう…
一人でガマンしないために」
電車が入ってくると同時に
坂井君の口から
ゆっくりと吐き出された言葉
突風に粉雪が舞い上がる中
あたしに向けられるまっすぐな視線。
「“練習”してみる?俺と」
それは
誘いの言葉。
でも
まっすぐに見つめるその瞳に
あたしは
“NO”なんて
頭にも浮かばなかったんだ。