一緒に、歩こう







「もう、今日みたいに待ってられるのは迷惑なの」





暗いことをいいことに。

少し距離を取って、そう告げる。

受け入れたい、だけど。

本当にあたしを想っていてくれるなら。

少なくとも1人の女性の想いを、

踏みにじっている。

矢野くんを好きだった、

あの子の想いを。

それに、受け入れちゃいけない。

受け入れたら、いけない。

彼は生徒で。あたしは教師で。





「だからね、もう準備室も来ちゃダメだし、送ってくれなくても大丈夫。きっと、あたしを好きだって言うのも、幻だよ!」






最低な女だと思った。

自分が教師ではなく1人の女性として、

人間として、言ってる言葉は

本当に最低な発言だ。

あたしへの気持ちが幻だよ、って。

でも伝えたいのは、幻じゃない、

あたしの本当の気持ち。

でも、言えない、あたしの本音。





「幻…だって?」





「そう。明日になったら、こんな女なんてどうでもよくなるって!」





出来る限り最低なことを言おう。

そして彼があたしを嫌いになればいい。

嫌いになって、教師としても嫌になって。

朝の玄関でも、授業の時も、帰りの時も。

避けてくれればいい。

恨んでくれればいい。

そうすることで、

矢野くんの幸せは守れる。

勝手かもしれないけど、

あたしはそうするしかない。







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