一緒に、歩こう
「1人で帰れんのか?」
「うん。大丈夫」
「帰る」
じゃあ。
矢野くんはそう言って
しばらく立ち尽くすと、
彼の大きな手で優しく頭を撫で、
背を向けた。
あたしは涙をぐっと
堪えて。
彼を見送った。
あたしは。
「…っく、ぅ…」
抱きしめてくる彼の背中に、
腕を回すことが出来なかった。
本当はあたしも、
彼を抱きしめたかったけど。
これは、全て。
あたしが選んだ道だもの。
「ごめんね…、矢野くん」
消え入る声で、
あたしは矢野くんに言った。
見えない背中を想って、
あたしはいつも以上に
泣いた夜だった。