一緒に、歩こう





「はい、これ。今週の宿題ね」



はいはい、と受け取る矢野くん。

あの日から、あたしと矢野くんは。

昔みたいに、生徒と教師だった。

名前を呼べば無愛想に返事し。

彼はあたしを先生と呼ぶ。

冷たく感じるけど、

これが当たり前の生徒と教師。

そう自分に言い聞かせるけど、

少し辛くて心が痛かった。




「多いだろ、これ」




あたしは一緒に準備室を出た。

もう帰る用意も出来てるし。

このまま玄関に行くだけ。




「ありがとね、取りに来てくれて」




「そう思うならもう少し少なくしろよ」




あははは、と響く廊下。

職員室もほとんど灯りは

消えている。

周りの教室には、

もう誰も生徒がいない。





「矢野くん、こんな時間まで何してたの?」




「あ、いや」




矢野くんはそうため込んで。




「お前待ってたんだけど」




「…あたし?」





だから、そうだって。

矢野くんは、あたしを

ばかにしたように見る。

あたしは。

何も言い返せなかった。




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