一緒に、歩こう
「ね、隼人帰ろうよ!」
「うるせって、来んなっつったろ」
矢野くんはあたしに見向きもせず、
玄関で靴を履きかえて
外に出て行ってしまった。
遠くの方で、手が繋がれている。
いつもは上からなのに。
ここから見ると、
1人の女になった気分になる。
「隼人…だってさ」
名前で呼び合う関係。
あたしには絶対訪れないこと。
「辛いな…、ほんと」
いきなり鼻の奥が
ツーンと痛くなる。
涙も出ていないのに。
「…戻らないと」
手にある英語のワーク類。
コピーしてあげた、
矢野くん専用のプリント。
今日は矢野くんのを
1番最初にしよう。
寝るときには今日のことを
すっかり忘れられているように。
明日は切り替えられているように。
あたしはこんなことで、
くじけたりしない。
1人そう思いながら、
職員室に戻った。