一緒に、歩こう
「あ、」
矢野くんは一言口にすると、
またこっちを向いた。
「さよなら、先生」
それがあたしと矢野くんの初めての会話。
そして初めての出会い。
まだ名前すら知らなかった彼に、
しかも生徒に惹かれ始めた瞬間だった。
そして何故か、あたしのことを
"お前"と呼ぶことがある。
初めはそれで、注意も
したりしたけど。
今では、そう呼ばれる度に
嬉しくなる。
それから4月になって、あたしは
矢野くんのクラスの副担任に。
初めは1人で喜んでいたけど。
それもつかの間。
あたしは教師で、矢野くんは生徒。
どう考えても、一緒にはなれない。
当たり前のことだ。
分かってる。
だから毎日、自分の気持ちを
押し殺すのに精一杯だった。