一緒に、歩こう




「直前まで普通の服で来ればよかった」




助手席でそう嘆いている隼人。

別にいつもの普段着でいいって

言ったのに、断固拒否され

結局着て来たのは新品のスーツ。

社会人になるために、最近

買ってもらったのだとか。





「でも似合ってるよ?」




身長も高いし、顔も整ってて

高校の制服着てても

高校生っぽくないから、

スーツなんか着たら余計

大人っぽく見える。

それに、心底かっこいい。





「早く脱ぎてえ…」




嘆きを耳にしながら、

座席で寄り添うあたし達。

昨日から冬休みのため、

もう学校はお休み。

今回隼人は奇跡的に

補習を受けることなく

冬休みを過ごせる。

だから明日は地元の名所を

観光して回る予定だ。





「もうすぐ着くよ」




アナウンスで地元の駅名が流れる。

あたしは上から荷物を下ろし、

降りる準備をする。




「貸せ」





隼人が1つ行動する度に、

近くの女の子の集団が

ひそひそとこちらを見ながら

話している。

あたしはそれを流し見ながら

わざと腕を組んでみたり。





「何?」





なのに、隼人はそうするあたしに

いつもと変わらない態度を取る。





「何もないです…」





途端に自分のしていることが

恥ずかしくなってきて

静かに手を離す。

駅に着いて、ドアが開くと

噂する集団をこっそり睨んで

電車を降りた。




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