一緒に、歩こう
前に進んだはずなのに。
今さっきいた場所と
変わらない。
「わ…な、にっ」
「一緒に行く?俺、中行くんだけど」
靴を履いたまま、
しゃがんでいる矢野くんは
あたしを下から見つめた。
やけに色っぽいその瞳が、
自然とあたしの体を
赤く染めていた。
よかった、夕方のこの時間で。
昼だったら完全にバレてる。
「行きません。あたし、職員室戻るの」
「なーんだ、じゃあいいや」
矢野くんはそう言うと、
今履いたばかりの内履きを
下駄箱に片付け、
廊下と玄関の段差に
腰を下ろした。
「忘れ物取りに行くの?」
「別に。ただ暇だから」
「帰らないの?暗くなっちゃうよ?」
黙って、振り切ってでも
職員室に戻ればよかった。
こんなこと、
思ってても言わなきゃ
よかった。