幽霊の思い出話

「ほぅ。宿が・・・、ないか」

 ふーんとまるで他人事かのように芹沢さんは呟いた。

「つまりは野宿をしろと、そういうことだな。近藤よ」

 低く、威嚇するような声。でも顔は笑っていた。どうすることも出来ない俺達は、ただ見守っているだけだった。

「違っ、違います。もう少々お待ちを」

「ふんっ、もう待ちくたびれたわ。おい、新見」

 新見さんを近くに呼び、何やら耳打ちをしているようだった。少し慌てた様子の新見さんを、ふっ飛ばす程の勢いで芹沢さんは押していた。

 新見さんは平間(ヒラマ)さんなど何人かと共に芹沢さんから離れ、散り散りになっていった。
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