幽霊の思い出話

 つまり、清河さんは幕府に従うつもりはない、ということだ。近藤さんは幕臣になる機会を掴みに来たっていうのに。

「おい、見ろよ。順々に皆、署名を始めたぞ」

 行き場のない浪人の俺たちには署名するしかないんだろうか。

「あぁ、俺たちはどうするんだ」

「でも、目的が違うだろう」

 試衛館の面々が口々に話し始めた。近藤さんは困惑している様子もなく、ただ黙っていた。

「ふむ、帰るか」

 そんな時だった。新見さんたちと共に、芹沢さんが立ち上がった。

「書かない、ということか?」

 低い声で清河さんが芹沢さんたちに向かって言った。

「あぁ、書かぬ。清河、勝手に江戸に帰るなりすればいい。まだ将軍様が京に着いてもいないというのに、警護すらせず、このまま帰ることなど出来るわけなかろう」

 芹沢さんは大きな声ではっきりと言いきった。
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