幽霊の思い出話

「そうは言っても聞いていないものは聞いていないのだ。この状況下、勝手なことは出来ぬ」

「ならば会津藩藩主松平公に確認をとっていただきたい」

 近藤さんに並ぶように土方さんが前へ出て、発言をした。

「えぇいっ、聞いていないといっておるだろう。ここは手一杯だ、向こうに行けぇ」

 別の門番が叫ぶように言葉を放った瞬間、持っていた槍をこちらに向けた。

「なっ、貴様」

 土方さんが腰刀に手をかけた。

「歳っ、よせ」

 近藤さんが土方さんの前に立ちはだかり止めた。芹沢さんは、皆のやり取りをじっと黙って見つめていた。

「土方さん」

 土方さんが刀を握っていた手を、斎藤(サイトウ)がゆっくりと下ろした。後ろに居た山南さんがその様子に安堵のため息をついた。
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