幽霊の思い出話
少し廊下を歩いたあと、俺たちはある部屋の前で止まった。
「行くか」
「うん」
少し深呼吸をした。
「芹沢さん、失礼します」
確かに聞こえる声で呼び掛けたはず。なのに返事は返ってこなかった。
「芹沢さん?」
呼び掛けてもやはり返事はない。
ゆっくりと襖を開けると、何本かの徳利が転がっているのが目に入った。
「あれ?居ない」
部屋の中は静まり返っていた。
「・・・あ、左之さん」
何かに気付いた平助が、俺の着物の袖を引っ張った。
「どうした?」
「あっち」
平助の指さす方を見ると、外の縁台に続く襖が少し開いていた。
「芹沢さん、居るんですか?」
そう言いながら襖を開くと、縁台の柱にもたれ掛かるように眠る芹沢さんの姿があった。