幽霊の思い出話

 出会うことがなかったら、私はこうして一緒に東京に行くこともなかっただろう。仕事を休むことも、運転することもきっとなかった。

「あ、ここ曲がるのかも」

 なんとか大裏門と書かれた看板が赤信号の横に見えた。

「近いか?」

「多分」

 少し狭い道を走りぬけると、ナビが「まもなく右方向目的地です。案内を終了します」と機械音を発した。

「ここだね」

 コンビニのそばを右折し、すぐにあった敷地内に車を停めた。降りようとすると、左之はすでに降りて、姿が消えた。

「あれ?」

 助手席側に回ると左之が居なくなった謎が解けた。

「ここにもあったんだね」

「あぁ」

 私の言葉に短く返事した左之は、石像の前に立ち尽くしていた。
< 213 / 279 >

この作品をシェア

pagetop