今宵、最後の一杯を…
 
 あいつと別れた今でもこのBARに足をはこんでしまうのは
感傷に浸るとか…もしかしたら偶然に会えるかもみたいな
そんな不純な動機ではなく…

純粋にマスターの作る「ギムレット」を愛してしまっているから…。

 それに、あの男がここに現れることは100%ない…
あいつは、俺様で鬼畜的所業の数々を私の体に焼き付けたくせに
別れた女の行きつけの店に顔をだせるほど図太くはなく
変に思慮深いところがあったから…まあ…そのギャップに
惚れていたんだけど…。

 一枚板の綺麗に磨き上げられたカウンターに静かに置かれた
その美しい液体は、シュガーシロップもフレッシュ・ライムも
入っていないから透明で、うっすらと汗をかいたようなグラスは
触れると冷たく、最後に抱かれた夜…

底知れぬ狂気を纏い正気をなくすほど翻弄するその指先の冷たさを
甦らせた。

 何度も教え込まれた「俺の女」という快楽の記憶に身震いをする…。

 
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