今宵、最後の一杯を…

 顔色を無くした美保が一人で店に現れたのは
そのやりとりから2ヶ月後だった。

 それまでは、2週間に1回ペースであの男とやってきていたから
何かあったと直感した。

 少しやせたその姿が痛々しく…

 ただ、もう会えないかもと思っていたから…
湧き上がる喜びを抑えるのが難しい…できるだけ冷静を
装っていつものように…

 「いらっしゃいませ…。」静かに微笑んだ。

 「こんばんは…マスター…久しぶり…。」

 力なく弱々しい笑顔に、胸が苦しくなり癒す気持ちで
何も言わずにさっと「ギムレット」を作って君の前に置いた…。

 「ありがとう…。」そう言って愛しげにグラスをなぞる左の薬指にはその手によく似合っていたサファイアの指輪がなくなっている…。


 あの男と…別れたんだ……。


 ぼんやりとカクテルグラスを指でなぞりながら

 小さな溜息ばかり零している…。

 話しかけようと思った瞬間、BARの扉が開いて要(かなめ)が

 「よお!」と軽い調子で入ってきた。

 
 まったく…間の悪い男だ…。

 
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