林檎と王様
林檎と王様
ピピピッ。

微かな電子音。
瞼を上げるのも億劫で、目を閉じたままパジャマの襟から手を突っ込む。重い瞼をなんとかこじ開けようとして。

「…よこせ」

横から伸びた手に、体温計を奪われた。

「どうせ腹出して寝たんだろ」

(子供じゃないんだけどな、私)

そう反論したくても、もう口を開くのも億劫だ。仕方なく、ため息で意思表示したけど、案の定じろりと睨まれる。

「大体、『遠足』の当日に熱出すなんざ、ガキの証拠だろ」

…はいはい、おっしゃる通りですよ。

いたたまれなくて、布団を顔まで被る。

久しぶりに休みが取れるって言われて浮かれて熱出すなんて、自分でも馬鹿だと思いますよ。

…だって、本当に嬉しかったんだもん。

普段の、まるで王様みたいなこの人だったら、絶対付き合ってくれない、郊外のアウトレット。いつもは、服なんかその辺のデパートで勝手に買え、て言い捨てられて終わりなのに。

散々お願いして、やっと連れて行ってもらえそうだったのに。

そこまで考えて、瞼の裏がじわりと熱くなる。

やだな、本当にちっちゃい子みたい。

布団の中で、熱い息を吐く。

「…ありがと。もう薬も飲んだし、ちょっと寝る」

震える息を吸う。

「だから、」

うつるし、帰っていいよと続けようとして、固まった。



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