林檎と王様
冷たくて大きな手が、前髪をかきあげて、柔らかい何かが触れる。
「あちぃな」
至近距離で、低く囁く声。
「さっきより熱上がったんじゃねえのか」
それは確実に、今のアナタの行動のせいだと思うんですけど。
布団の中で良かった。立ってたら卒倒してるところだった。
ひとりでそんなズレたことを考えていたら、近くにあった体温が離れて、コンビニか何かのビニール袋の音がした。
「台所借りるぞ」
「ふぇ?」
今、なんて言った?
「林檎くらい剥いてやる」
慌てて布団から顔を出すと、その大きな手に、本当に林檎を持っている。
うそ。
「剥けるの?」
「………黙ってろ」
要するに、自信はないわけね。
「笑うな」
「ごめん。ありがとう」
だいすき。
枕に顔をうずめながら見上げると、即座に顔を反らされた。
「血みどろの林檎でも、文句言うなよ」
「食べる食べる。鉄分豊富よ、きっと」
笑いを堪えながら言うと、いいから寝てろ!と真っ赤な耳が言う。
さっきとは正反対な気持ちで、瞼が熱くなる。
最強の特効薬じゃない?
林檎と王様。