ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
(長年近くにいた克己でさえ気づかなかったのに)


うれしかった。

頬にじゅわっと血が昇る。


(ちゃんとあたしのこと、わかってくれてたんだ)


初めて「あたし」という生身の人間そのものを、誰かに認識してもらったような気がした。

今までは、いろんな肩書きや形容詞がついてた気がするから。

「全国で銅賞取った柚希」「戸倉さんとこの絵のうまいお嬢さん」
「うちの娘は絵が得意で」「あの宝塚の男役っぽい子」……


薫さんの明るい声は続く。


「なかなか興味深い話をしてくれたよ、アヤちゃんは。君のことについて」

「……うん」

「柚希ちゃんが、女であってはいけないって思ってるって。

それで自ら、いろんな部分を閉ざしてしまっているって」

「……」

「いい? 柚希ちゃん」


薫さんは、ソファの上で座り直して、あたしの方に向き直った。

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