ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
薫さんのきれいな目が、やさしく細まった。


「ほら、こないだ言ってたでしょ?

上手い人に嫉妬してあら探しをしたり、下手な人を見て優越感を持ったりする自分が嫌だったって。

賞や評価ばかり求めていて疲れてたって」

「……うん」


泣いたことを思い出して、ちょっと恥ずかしくなる。


「そういうものがさ、実は自分を苦しめているっていうことは、人はなかなか気付かないもんなんだよ。

人の評価・賞賛なんてものは、得られさえすれば、実際甘い汁なわけだしね。

どうしてもそっちを求めたくなって、得られないときの苦しみには目をつぶりがちなんだ」

「……」

「人の優位に立ちたい、なんてのもそうだよね。

“この人より上手な絵が描けた”なんて、優位に立てて優越感で喜んでると、優位に立てないときに劣等感に苦しむことになる」

「……うん」

「そこから離れることができたら、生きるのがずいぶん楽になるんだけどね。

人からどう思われようと一切気にしなければいい。

< 168 / 278 >

この作品をシェア

pagetop