ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……

「あの、黒川さん」

「なに？」


あたしはとっさにお腹が痛いふりをして、少し身を折って顔をしかめてお腹を押さえた。


「あの……お腹の薬なんか、ありますか？」

「……？」


形の良い眉を上げて、首を軽く傾げる。


「またちょっとお腹が痛いんです……」

「今ちょっと、ここにはないね」

「すみません、買ってきてもらえませんか？」

「何ていう薬？ 買ってきてあげる」


言葉だけはとてもやさしいのに、なぜか怖くて背筋がざわついた。

薬の名前を言うと、机に突っ伏したまま息をひそめてマンションのドアが閉じられる音を待つ。

ドラッグストアは100mほどのところにある。あたしの持ち時間は少ない。


ガチャ。

扉の閉められる音とともに。