ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
不意にくるりと身を翻して。

向こうを向いたまま、黒川さんはぽつりと言った。


「今日はもう時間だから、もうお帰り」


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マンションを走り出ると。

まだ心臓をバクバク言わせながら、あたしは走ってた。

少しでも早くあのマンションから離れたくて。


道の先に見えるいつものベンチに、薫さんの姿はなかった。


(いない――)


少しでも薫さんの顔を見たかったのに。


(どうしていないの!?

薫さんのバカバカバカ!)


走りながら、思わず涙が出そうになる。


と。

ベンチの向こうの太い木の幹の向こうから、いきなり誰かがひょいと顔を出した。

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