ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
(まさか、あんなことになるなんて――)


さっきの緊張が蘇って、あたしはしばらくの間涙が止まらなかったけど。

ふと、最後に見た黒川さんの深い悲しみをたたえた目を思い出すと、突如嘘のようにピタリと涙が止まった。


「どうしたの? まあ、座って」


薫さんは後ろ向きのまま、少し落ち着いたあたしをベンチに導こうとして、せり出していた木の枝にぶつかった。

葉がザシャアッと音を立てる。


「わっ」


驚いて振り向いて木の枝に気づく薫さんは、あまりにいつもどおりの薫さんで。

あたしはそれを見て、こんなときなのにやっぱり吹き出してしまって。

ここに変わりない日常があることに、あたしは限りなく安堵してた。

あっという間に心が落ち着いていく。


「ここ、座って。柚希ちゃん」


あたしの肩を持ってベンチに座らせると。

薫さんはベンチの横に座らずに、あたしの前の地面に膝をついてしゃがんで、うつむくあたしを下からのぞき込んだ。

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