ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
絵を描いているだけで幸せ、そういう人。

自分で自分を完全に満たしてるから、周りに何も求めなくていいのかもしれない。


「全国美術展で銅賞」なんて、あちこちでほんのり吹聴していた自分が、何だかものすごく浅ましくて恥ずかしい人間に思えてきた。


「薫さんって、世界一幸せな人かもね」


ため息とともに口から滑り出たあたしの言葉に、にっこり微笑んでほがらかに言う薫さん。


「うん、オレは幸せな人間だと思うよ」


明るい笑顔の薫さんに、また胸がギュッと痛くなった。


(この人には、あたしなんて必要ないんだろうな)


この人を幸せにする条件はほんのわずか。

ほんの少しのことで、この人は満たされてしまって、他のことを求めない。

……でもそれは、物があふれて恵まれているはずなのに、なぜかみんな幸福を感じられない今の日本で、実は忘れられてる大切なことなのかもしれないね。


(そういえば、あたしも以前そんなことがあったな――)


中学生の時に行った、無人島のキャンプを思い出す。

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