ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
ただ黒川さんに怯えて遠ざけようとして、必死で北風を吹かせてた。


それじゃだめなんだ。

太陽にならなくちゃ、旅人は決してマントを脱がない。


黒川さんは苦しんでるんだ。

誰よりも苦しんでるんだ。

今のあたしなんか比較にならないくらい、恐ろしい苦しみの中に何年もいるんだ。


どうにかして、黒川さんを苦悩の海の中からすくい上げてあげないと、決して事態は良くならない。


「あたし、わかった。薫さん。

あたしね、今まで黒川さんがすごく怖かったんだ。

だから、怯えて必死で遠ざけようとしてた。

ひたすら逃げようとしてた。

騙そうとさえしてた」

「……やっぱり何かあったんだね。

柚希ちゃん、ね、頼むからちゃんと話して」


あたしの腕を握って必死に訴える薫さんの言葉すら、今やあたしを素通りする。

< 214 / 278 >

この作品をシェア

pagetop