ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
いつも暗い、翳のある闇のような瞳が、今は悲しげにさまよっていた。

やがて、定まらなかった焦点が、じんわりあたしに定まっていく。


(さあ、あたしはレイさん。

この人を心から愛してる、レイさんになりきって)


自分に言い聞かせる。


「智弘さん……」


じっとお互いを見つめあう、緊張で糸がピンと張りつめたような長い時間が過ぎて。

あたしの緊張の糸は、少しずつ切れそうになってきていた。


(やっぱりだめかな……こんなこと)


急に弱気になる。

馬鹿げてるよね。

だって、あたしはレイさんじゃないんだもん。

智弘さんがあたしをレイさんだと思ってくれるわけない。


あたしはあきらめかけて、うつむいた。


――と、そのとき。

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