ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
(誰もいない――)


いつも薫さんがいるベンチは、今日は誰もいなかった。

あたしはそこにぐったりと腰掛けると、ただただ泣いた。

街灯と月明かりに照らされた、きれいな紅葉を見ながら。


どうして泣いているのか、自分でもよくわからなかった。


さっき泣けなかった分の涙。

智弘さんの恐ろしい苦しみに。

触れた肌から伝わった、胸に紡がれる焦げるような想いに。

智弘さんのあの涙に、『ありがとう』の言葉に。


今までのことが全部細かく思い出されて、あらゆることに、あたしは涙を流していた。


静かで美しい夜だった。



どれくらいそうしていたのか。

時間の感覚もないまま、泣き疲れて、ただ頬を涙が伝うままにまかせていたあたしは。


ザッ。 ザッ。


ふと、落ち葉を踏みしめる静かな足音に気づいた。

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