ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
「レイさんは、黒川さんを裏切ってなんかいなかったよ。

浮気相手の俳優さん――清水さんと昨日会って話して、それがわかったの。

彼女は黒川さんだけを愛してた。

清水さんとの間にも何もなかったんだよ。

あたし……それをどうしても黒川さんに伝えたかった」

「……」

「それでね、黒川さんの気の済むまで、レイさんへの思いをあたしにぶつけてって言ったの。

いろんな後悔や言いたかったこと、思いをぶつけてって。

黒川さん……ずっと信じてあげられなくてごめんって言ってた。

――あの人、泣いてた」


薫さんは、じっとうつむいて黙って聞いていた。

やがて、こわごわと口を開く。


「柚希ちゃん……君は、もしや……」

「何も言わないで」


薫さんの言葉をさえぎって、あたしはまた無理に微笑む。


「あの人は、もう大丈夫だと思うの。

時間はかかるかもしれないけど……

これ以上過去の苦しみに閉じ込められることなく、前に進めるようになると思う。

< 245 / 278 >

この作品をシェア

pagetop