ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
二人の唇がどちらともなくそっと近づいて。

次の瞬間、狂ったように、お互いの唇を求め合っていた。

腕がぎゅっと互いの体にきつく絡む。

まるでそのまま溶け合うかのように。


(薫さん――)


新たな涙が、頬を伝った。



手がもどかしく、首や髪や背中をまさぐる。

少しでも相手に近づきたい、触れたい一心で。


(愛してる、あなたを――)


重なった唇から、絡まった指から、触れた肌から、服越しに伝わる体温から。


心がじわりと通じ合った気がした。



(薫さん――)



――と、


そのとき。


薫さんは、急にあたしから身を離した。

< 249 / 278 >

この作品をシェア

pagetop