ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
背後にふと、静かな足音がした。


(薫さん……?)


もう戻ってきたの?

あたしは微笑みながらゆっくりと振り向いた。


と。



そこに立っていたのは――



「智弘さん……」


悲しげにじっとこっちを見つめる、黒曜石のような瞳。



「もう行ってしまったのかと思った」


あたしの方へすがるように差し伸べられた手に、あたしは首を横に振った。


「……だめよ」

「愛してるんだ」

「……ごめんね、智弘さん。

あたしはレイさんじゃないから。

悲しいけど、レイさんはもういない。

もうこれ以上、レイさんの代わりはできな――」

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