ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
「そうじゃない。

やっと、気づいたんだ――


僕は、君を――」


「智弘さん……」


「もう、どこへも行かないでくれ――


僕を置き去りにしないでくれ――」


その絞り出すような悲痛な声に。

思わずあたしは腕を智弘さんの背中に回して、ぎゅっと抱きしめていた。



そのとき。

智弘さんの肩越しに、飲み物を持ってやってくる何も知らない薫さんが見えた。


(薫さん!

ダメ、今は来ないで……)


きつく抱き合うあたしたちに気づいて、ぎょっとしたように足を止める。

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