ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
まさに完璧な人だった。

何よりも、あたしの絵の良き理解者であり、良き指導者。

こんな人に愛されて、こんな幸せなことはないから。


-----------------



「ねぇ、柚希。いいの?」


ケーキを仲良く食べた後のコーヒータイムで。

智弘さんはふと壁の時計を見上げると、行儀よく飲んでいたコーヒーカップをコトンと置いた。

空のコーヒーカップの並んだテーブル越しに手を伸ばして、あたしの手をぎゅっと握ると、突然そう言った。


「いいのって、何が?」


智弘さんは、にっこり微笑んだ。


「柚希はこのままでいいのかって聞いたんだよ」

「このままって?」

「このままじゃ、柚希は僕と結婚してしまうよ」

「……え?」


あたしは驚いて、思わずポカンとしてしまう。

< 264 / 278 >

この作品をシェア

pagetop