ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
(智弘さん……)


どうして……?



不意に、ケータイが鳴った。


(智弘さん!)


あわてて受話アイコンをタッチする。


「柚希」


静かで丁寧な、やさしい声がした。

あたしの合図で、薫さんも上半身を折ってあたしのケータイに耳を寄せる。


「智弘さん……ちょっと、これは一体、どういうこと?」

「……ねぇ、柚希」


子どもを諭すような、穏やかな声。


「自分の愛している人の心の中に誰がいるのか、僕が気づかないほど鈍感だと思ってたの?」

「……智弘さん」

「あのまま僕と結婚するつもりだったの?

――言ったでしょ、柚希の幸せを心から願ってるって」

< 272 / 278 >

この作品をシェア

pagetop