兎の狂い唄

記憶をふと呼び覚ましていると目の前にある物が見えた。

三角形や五角形、ひし形に円型…様々な形をした硝子の欠片だった。
目の前に漂うように現れた円型の欠片を手に取れば硝子を見つめた。

その中には昔、俺が帽子屋とまだ出会って間もない時の事が記録されていた
映像が硝子の中に映し出されるととても懐かしくて遠い記憶を思い出された

随分と前…、アリスが…現れる二十年も前の事。



森に初めて来た俺はただ迷子になっていた時に彼奴と出会った。

赤い髪を左右に跳ね伸ばして黒い瞳に派手なシルクハットに飾りとしてか、ついた値札が印象的なお兄さんだった。
俺がこの世界に住み着いて間もないときに彼奴と出会い彼奴に恋をした。

「やぁやぁ、こんにちわ。えーと、お前が新入りの…」

「ガルダ…。前にいた時の名前」

呑気な声をかけてくれたのに前向きではなく、後ろ向きな俺にとっては苦痛で仕方がなかった。
どうしてこんな所にいるんだろうか、それだけで自分を問い詰めていた。
記憶がなくて当然なのに此処に来る前の記憶はなんとなく覚えていた。
だから名乗って驚かれるのはわかっていたのに彼奴はただ口でガルダ…ガルダ…、と呪文を唱えるように言い始めた為、何故驚かないのか少し気になった。

「よし、ガルダだなっ!№は…二十日鼠に白兎…チェシャ猫に俺に…。そうかそうか、六番目の主人公だな!て、事は№六…か」

ふと名前を口にし、おまけに他の人物の言葉を口にするようにして№六という数字をもらった。
頑張れよ、とその時はそれだけ言われて家を案内されて、俺は一日を終えたけど何ががんばれで何が№なのかよくわからなかった。

″主人公″?
″№″?
″自分″は誰だ…?

よくわからない第二の人生が始まったけどもわからない事だらけだった。
何が主人公だ、何が№だ…自分とは?

頭の中で回る自問自答が離れられなかった。
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