あなたの”その”足元へ
   *
「ライナって、酒弱かった?」


だるそうにソファーに寄り掛かり、綺樹は不思議そうにライナを見おろす。

ライナは床に伸びて、眠り込んでいた。


「綺樹が強いんじゃない?」


綺樹は前髪を指先でいじくりながら、涼に視線を移した。


「母親似かな」

「ふーん」


飲まずに素面の涼は、食べ散らかしたテーブルの上を、片付けていた。

二人のつまみを作り続けて、飲む暇がなかった、というのが正しい。


「全く。
 こんなに残すなら、あれ作れ、これ作れ、っていうなよ」


愚痴のように呟くと、綺樹が少し声をたてて笑った。


「ごめん」


素直な謝りの声に、涼は思わず顔を向けると、無邪気な笑い顔だった。

なんとなく涼は顔を再びテーブルの上に戻して、皿を集める。


「なんか面白くって。
 ライナの注文に作っている姿が。
 なんていうの?
 わたわたしていて。
 コメディーみたいで」


それって、もの凄く馬鹿にしていないか。

涼は自分があからさまに、不機嫌な顔になるのがわかっていた。


「でも、おいしかった。
 どれも。
 久々に、おいしいものを食べた」


独り言のように、しんみりとした口調だ。

涼はちらりと綺樹を見た。

グラスに口をつけながら、ぼんやりと窓の外をみている。

綺樹も回っているらしかった。

男物のようなシャツから覗いている、白い首筋が赤くなっている。

均一で滑らかな染まり方だ。

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