あなたの”その”足元へ
「電話」


煙草を持った手で、また振るえている携帯を指差した。

話している涼を観察する。

何人かの内の、一人だろう。


「ん?
 今日はバイト。
 夜遅いよ。
 週末はバイトだよ。
 月曜日に学校の後は?」


口調が優しいじゃないか。

綺樹は肩をすくめる。

自分には縁の無いタイプ。

今までも、これからも。

綺樹は少し視線を下げると、ベランダに出た。

窓の閉まる音に、涼は電話をしながら、ベランダに目を向けた。

いつもと変わらない、男物のようなシャツが、風ではためいている。

時々、風で張り付き、綺樹の体の線をあらわにする。

綺樹が背を向けているのをいいことに、涼は凝視に近く見つめていた。


「聞いてる?」


電話からの声に、涼は視線を外した。


「聞いてる。
 ごめん、そろそろバイトに行く時間。
 終わったら電話するよ」


携帯を切ると、ベランダへの窓を開けた。
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