あなたの”その”足元へ
「バイト行ってくるから」


ちょうど吸い終わったらしい。

手にしていた灰皿に潰した。


「ん。
 イタメシ屋だっけ?」


涼の脇をかするように、すり抜けて部屋に入る。

体が触れそうで触れない。


「なかなか旨いよ。
 今度、食べに来れば」

「らしいね。
 ライナが言っていた。
 ライナ、嘆いていたよ。
 大学行かないで高校卒業したら、そこに弟子入りするって言い張っているって」

「勉強、好きじゃないしね」

「そう?」


新聞を床から拾い上げるため、うつむいた綺樹の口元が、微笑するのを見ていた。


「学費の世話をかけるほうが、親孝行だと思うけど」


多分、年下であろう女にずばり言われて、ムカつく。


「知らないと思うけど、ライナって実は金持ち。
 お前が留年しようと、留学しようと、そのぐらい痛くない」


にやっと笑った。

本当にこの女は、可愛くない。


「考えてみたら?
 大学」


憮然としている涼に気付いていないように、綺樹はソファーに座ると新聞を広げた。
< 16 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop