あなたの”その”足元へ
その時涼はテーブルクロスの下で、綺樹の靴が片方転がっているのに気が付いた。

男の片手がテーブルクロスの下に潜っている。

綺樹が片足を男の太腿に上げ、男はその足を撫で回しているのだ。

濃密な空気。 

綺樹が、いたずらっぽい笑いの目を、男の顔から離そうとしない。

男も口元に微笑を浮かべて、綺樹を見つめたままだ。

涼はなんだか、むかむかした。

担当のテーブルではないので、サーブをせずに済んだのが救いだ。

にこやかに、愛想良くなんて、出来そうもない。

二人はワイン1本と、軽く食事をして出て行った。

去り際に、綺樹は涼の視線を捕まえて、またにやりと笑っていった。

それは、涼の恋愛レベルの低さを、笑っていたような気がして、またむっとした。

悪かったな、据え膳だけで。

ああいう大人の男の雰囲気はできねーよ。

ゴミ袋を置き場所に放り投げる。

なぜこんなに腹が立つのか。

今付き合いがある女の子たちに、ああいうことをされても、腹が立たない気がする。

他の男を好きになったんだな、と、あっさりとした気分だろう。

そもそもああいう振る舞いも、雰囲気も、出来るような子はいないが。

じゃあなんでだ。

未消化の気分を、涼はずっと抱えていた。
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