あなたの”その”足元へ
思わず鸚鵡返しになる。

綺樹はフラフラとしていた。


「寝ていい?
 あいつ、思っていた以上にタフで」


涼はしばし言葉を失った。


「女が言う言葉かよ」


ソファーに向う途中だった綺樹は足を止め、くちびるの両端を持ち上げて微笑を作った。

掬うように見上げる。


「足に力が入らなくて、腰が重い」


ちょっと媚びた甘えるような口調で言うと、涼の反応を見届けず、ダイブするようにソファーに倒れこんだ。


「おまえねっ」


涼は自分でも顔が赤くなったのがわかっていた。

ライナが“も”節操がないと言った、“も”がかかるのはこいつだ。

一言、言いたくてソファーに近づく。

相手はもはや寝入っていた。

リビングの照明で、髪の毛が淡い光を反射させている。

触ると、さらさらして気持ちよさそうだ。

そんな経験がないのに、涼の指に感触が蘇る。

自分が唾を飲み込んだのがわかって、綺樹から視線をそらせた。

この間、職場の先輩が休憩時にしていた話を、思い出した。

彼女が部屋に帰って来たとき、元彼と寝てしまったのを察して、すぐさま上書きしたと怒っていた。

その時は、そんな女は止めればいいのにと思ったし、そこで上書きをするという心理がわからなかった。

だけど、今。

上書きしたい。
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