あなたの”その”足元へ
   *
バイトから帰って来ても、綺樹はまだ帰っていなかった。

明日は学校なのに、涼は寝室に引き上げて横になった。

目を閉じても意識は玄関の方に向き、耳をそばだててしまう。

やがて眠りに落ちても、意識が働いていたらしく、物音にはっと身を起した。

くぐもった人の話し声。

ドアを開けると、玄関にスーツ姿の若い男性と抱え込まれた綺樹がいた。


「夜分遅くにすいません」


涼に気が付いて、男性は微笑して静かに言った。


「どちらさまですか?」


また男連れか。

少しとがった声になる。


「北野達馬といいます。
 彼女、少し飲み過ぎたので、送ってきました」


そういいながら、抱えている綺樹に視線を落とした。


「綺樹、上がれる?」


優しく親しげな声かけ。

綺樹がうなずきながらも、足を進められないのに、達馬が家の中に運ぼうとした。

涼が手を伸ばした。

綺樹の体を受け止めるように、奪う。
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