あなたの”その”足元へ
「対して役に立たなかったね」


わびる口調に綺樹は顔を上げた。


「いいや。
 気づかれないように、代わりに何杯か飲んでくれてただろ?
 それに、いてくれた、それだけで十分なんだ」


酔いで間延びした口調に、達馬の綺樹を見下ろす眼差しが優しくなった。


「それぐらいのこと」


語尾は言わなかった。

跳ねるように、涼に視線を上げた。


「それじゃあ、後よろしく。
 失礼した」


ドアを開けて出がかって、思い出したように振り返った。


「綺樹。
 アメリカに帰る前に家に寄ってくれ。
 母が会いたがっている」

「ん。
 了解」


再び綺樹は、涼に頭突きする形に戻っていた。

ドアが閉まって沈黙になる。
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