あなたの”その”足元へ
ぽつりと綺樹が言った。


「トイレ」


歩こうとしている。

”いとこ”という言葉に安堵している、自分に動揺する。

あわてて綺樹の肩の下に腕を入れて、支える形に変えた。

トイレにたどり着くと、綺樹は涼の腕を抜いて、床に座り込んだ。


「みず」


命じられたとおり、涼がキッチンから水をとって返すと、綺樹が吐いていた。

一気に空気のアルコール濃度が、高くなる。


「あ~あ~あ~」


やれやれと涼は水のペットボトルの栓をとると、目の前に差し出した。

震える指で捕らえた後、何やらくちびるを動かした。

礼を言ったらしい。

涼はトイレを流した。

しかし見事に液体しか出ていない。

水を飲んで一息ついたらしい綺樹は、壁に寄りかかり、ぼんやりと目の前を見つめている。

自嘲した。


「利用しちゃったな」

「なに?」
< 31 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop