あなたの”その”足元へ

「え?」

「なんでもない。
 客が来たみたいだ」


クッションに顔を埋めてしまったのを、ちらりと見下ろして、インターホンに歩み寄る。


「今晩は。
 今泉さやかと申します。
 綺樹、お邪魔しているかしら?」


涼がソファーの方に振り返ると、綺樹はぎょっとした顔をしていた。


「あの、開けて」


綺樹はためらいがちに頼んだ。

涼はオートロックを解除した。

玄関チャイムが鳴ってドアを開けると、後に男たちを幾人も侍らせ、またそれが似合っている女性は、涼ににっこりと微笑した。


「さやか。
 どうしたの?」

「ずいぶんな様子ね」


綺樹は無言で肩をすくめた。


「なにかトラブル?」


ややぶっきらぼうに聞く。


「ただ仕事を届けにきたの」


綺樹の顔が引きつった。


「休暇じゃない?」

「いきなり休暇届を置き逃げで、許可をあげられないわ」


さやかは優雅に微笑した。


「置き逃げって、正式手順で提出したじゃない」


ため息混じりに言ったのを無視される。


「さあ、どうする?
 ここで?
 それとも職場に行く?」
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