あなたの”その”足元へ
1階に着くと、無言のまま綺樹は歩いていくのに、涼も無言でついていった。

タクシーに隣り合って座る。


「一体何事だよ」


涼が静かに、だけど真剣な声で聞くのに、綺樹はおかしそうにくすりと笑った。


「仕事」


涼の肩から力が抜ける。

そうだな。

何か問題だったら連行されるだろう。

途端に自分の行動が間抜けに思え、その恥ずかしさからぶっきらぼうになる。


「過労死になるぞ」


綺樹はくつくつと笑って、窓に頬杖をつき外を見た。


「いいんじゃない?
 死にたいとは思わないけど。
 死にたくないとも思わないしね」


くちびるを歪めた。


「うわ、ませガキ」


綺樹は嫌そうな顔になった。


「なんだそれは」

「すねんなって」

「すねてない」


機嫌を損ねたらしくそれっきり綺樹は口を聞かなかった。
< 53 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop