あなたの”その”足元へ

「おまたせ」


落ち着いたアルトの声。

なぜか、ざらついた心がなめらかになる。

見上げると、淡い茶色の瞳が静かに見下ろしていた。

自分の表情が緩むのがわかった。


「早かったな。
どうだった?」

「ん、べつに」


おもしろくもなさそうな声だった。

涼が立ち上ると、綺樹はさっさと先に正面玄関へと歩き出した。

顔色が青いのに、さっきの話を蒸し返してしまう。


「仕事しすぎじゃないか?」

「仕事以外、なんにもないから」


追いついて横に並んだ涼をちらりと見上げて口元で笑った。


「なくないだろう?」


綺樹は低く笑った。


「それしか。
 存在価値がないからね」
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