あなたの”その”足元へ
開く距離が止まって、振り返った。

ちょっと、首を傾げた。


「涼?」


不思議そうな声。


「なんでもない」


涼は笑みを作って追いつき、自動ドアを出ると外は光が鈍い世界だった。


「霧雨か」


二人とも傘を持っていない。

建物に戻って、売店で買ってこようかと迷っていると、綺樹は構わずに進んでいく。


「綺樹」


ぎょっとして、腕をつかんで屋根の下に引きずり戻した。


「かぜ悪くなるだろ。
 傘買ってくるから」

「えぇ?
 このぐらい大丈夫だろ」


きょとんとしているのに、涼の方が笑ってしまう。

こういう時は本当にかわいい。


「さすが外人」


するとあからさまに、嫌な顔をした。


「とにかく微熱があるみたいだし、傘を買ってくるから待ってろよ」


綺樹の顔が固くなった。


「大丈夫だ。
 このぐらいなんともない」


さっさと歩き出した。
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