あなたの”その”足元へ

「なんだか、言われたくない台詞だ」


おかしそうに涼を見上げる。


「そうか?」

「すっごく軟弱な男みたいじゃないか」


綺樹はくくくと声をたてて笑った。


「さて、まあ、目的はわかっている。
 少し様子見だな」」

「慣れているんだな」


当然だが、誘拐など初めての経験だ。

ライナは出張中だから、二人の不在に気付き、不審に思うのは2日後ぐらいか。

焦りを感じるが、綺樹の落ち着いた様子に、男の自分が動揺するのは見苦しい。


「まあ、アメリカにいればね」


綺樹はたいしたことの無いように答えると、座り込んだ。

壁に寄りかかり、息を吐いた。

涼は隣に座り込んだ。


「膝を貸す。
 横になれよ」

「ん」


素直に身をずらすと、綺樹は頭を乗せた。

ふうっとため息をついて目を閉じた。
< 61 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop