あなたの”その”足元へ
涼は銃の存在を忘れて駆けより、抱き起こした。

背後でドアが閉まる音に振り返る。


「くそっ」


毒づいてから、綺樹の濡れた髪を掻き揚げた。


「大丈夫か?」


目を閉じたまま、うなるように返事を返される。


「ごめんな」


その痛切な響きに、綺樹は目を開いた。


「なぜ?」


擦れた声で問いかけられた。

それを聞くか。


「俺が、呼ばなければ、水をかけられることなんてなかったろ」


綺樹を自分の膝に載せて、ハンカチを取り出すと、顔にかかった水を拭う。

自分のつっけんどんな口調に気が付いて、打ち消すために言葉を足した。


「というか情けない。
 銃口を向けられて、正直、怖気づいて動けなかった。
 おまえが水をかけられたときも、髪の毛をつかまれたときも、動けなかった」


心底口惜しい言い方に、綺樹はいたずらっぽい微笑を浮かべて見せた。
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