あなたの”その”足元へ

「動けなくて・・よかったよ。
 立ち向かわれていたら、私は・・口を割っていたから」


涼の微妙な表情に、綺樹は少し可笑しそうな顔をして、目を閉じた。

意識を失うような眠り方だった。

膝から感じられる熱さは増している。

飲みたがっていた水も飲ませられなかった。


「ごめんな。
 ほんと、ごめん」


涼は呟いた。

力が無い、ということ。

腕力、交渉力、権力、あらゆる力。

そのことについて、痛切に体に刻み込まれる。

涼は奥歯を噛み締めた。
< 66 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop