泣き顔の白猫
そこまで考えが至って、加原は、我に返った。
いつの間にか聞き込みは終わり、帰路に着いていたらしい。
頭上で街灯が、ばち、と音を立てたのを聞いて、加原は上を見上げた。
曇った夜空を扇いだ顔を戻して、時計を見る。
「うわ……日越えてた……」
いつのまに、と、独り言を呟く。
昼から数時間資料室に籠って、安本が来たのが、確か三時過ぎだった。
それから十時間近く、ずっと上の空で過ごしていたことになる。
頭の中は、名波のこと、五年前の事件のこと、そして安本の謎の言動のことで、一杯だった。
加原は、自分が今歩いている道に気付いて、
「あーあ……」と小さく声を上げる。
通り慣れた風景。
ここ最近は特に、数日も開けず見ていた景色だ。
前回通ったのは、三日前だったか、四日前だったか。
無意識に向かっている、なんて。
しかもそれが名波に会いたくなったからだと自覚しているあたり、重症だ。
さっき時計を見たばかりなのに、また確認してしまう。
何度見ても当然変わらないが、閉店時刻はとっくに過ぎている。
『喫茶りんご』は、真っ暗な姿で、佇んでいた。
(疲れてる………)
それだけではないのはわかっているが、そう考える。
そう思わなければ、あまりにも情けない。
加原の住む寮は、警察署からは反対方向だ。
この時間じゃ電車もバスもないし、タクシーもこんな住宅地では捕まらないだろう。
もう歩いて帰ろうかな、と思っていた時、視界の端でなにかが動いた。
『りんご』の方だった。